猿王[中能健児](03.5.8)
動物は神 圧倒的な暴虐
作品は人の頭をかじる小猿に主人公が暗示を掛けられるシーンから始まります。
主人公はインドで旅行している日本人です。
悪夢にうなされながら、夢にでてきた小猿に遭います。
一人の老人を操りながら、片手にかじった跡がある首を持たせながら。
「私は神になるものだ、そして神に成長する為にお前が選ばれた」
そう告げられた主人公はその異様な現場から逃げる為、
猿が操っていた老人を道端の押しでがつがつ殴りつけ逃げ出します。
逃げた主人公は昨晩の光景にうなされながら 安宿で休憩を取っていると修行僧が訪れ、
そこで事の真相を告げられます。
あの小猿は宇宙と自然の流れの中で生まれたひずみから生まれた微細な悪意で、
それが流れからこぼれ落ち、雲となり雨となり地に降り、やがて植物の果実として実になり、
動物の血肉となって命を受けた生き物だという事。
そしてそれは神に近いもの達を自分の一部とする事で成長する。
その関連を助けになる存在が主人公だと。
修行僧は日本人に自殺を勧めます。
絶望にふちにいる主人公は、
何とか修行僧達が小猿をかすかな希望をもっていましたが
目の当たりにしたのは修行僧が牛に突き殺されたり、謎の水棲動物に食い殺される姿でした。
このままでは逃れられない事を察した主人公は中古のショットガンを購入し準備しました。
ひたすら密室で恐怖を待ちつづける主人公が
ドアも無い路地裏の一室に案内されます。
先に少女が部屋に入ったのですが、「ガリッ」という音がし、
そこには脳天がかじられ血が流れ出している少女の死体と猿がいました。
「殺してやる」
恐怖より暴力的な感情が上回った主人公は、逃げた猿を追いかけ、
街中で人がいることを構わず、猿に向かってショットガンで乱射し始めます
猿のしもべの犬に噛付かれながら一度は猿を倒します。
その後警察が来て取り押さえられますが、
主人公の目には倒したはずの血まみれの猿が生きている姿が映りました。
警察からは「少女の死体も発見し、ショットガンを持っている事も確認している」とイかれた犯罪者と断定されます。
事件を起こし社会復帰もままならなくなっている状況を認識した主人公は、
猿の言っている「運命」が逃れられないものになりつつあると認識していきます。
どこにも行くことが出来なくなった主人公は小さな諦めとともに猿とともに警察署を出て行きます。
一人の人間では抗えない大きな運命のうねりというか猿が持つ暴力以上の力でぐいぐい話が進んでいきます。
警察署に捕らえられた男の待っていたものは、人間の権力組織や暴力程度では太刀打ちできない
小猿は虎を従えて乗り込み男を悠然と奪っていきます。
猿王とはその歪みから生まれた悪逆の猿の事です。
人間の場合、普通人間相手に暴力を振るう方も振るわれる方も躊躇するじゃないですか。
殴る殴ると口にしてもいざ額がぱっくり割れてしまうほどの現場など見た事だってなかなか無いわけですよ。
特に男は慣れてなければ血とか屠殺とか見ただけで一瞬で血が引きますよ。
俗に言う立ちくらみをしてしまうかも。言葉で地面が回転します。
死ぬとかなるともっともっと大事ですよ。
登場人物が次々躊躇無く頭からガリガリ食べられていきます。
死ぬ直前の断末のシーン
「XXっ〜なんで死んだんだー」とベタなシーンだってあると思うんですよ。
まったくありません。生老病死がすごく当たり前すぎて
最初引いていたのがそのシーンの多さでだんだん麻痺してきて「当たり前」化してきます。
ところで主人公には名前がありません。作中に出て来ません。
ただジャパニ(日本人の意味)としか呼ばれません。
この猿の出現に比べれば
名前や人間の存在など雨風が吹く程度のただのそれだけのものなのかもしれません。
インドという独特の不思議めいた異国の風景や作者の独特な作風。
圧倒されるほどの日常と奇跡の繰り返すストーリーの起伏が、
それぞれミスマッチして奇妙なな面白さを生み出しています。
もう10年も前の作品になるので目にする機会が少ない作品ではありますが、
独特な世界観は必見です。
<< back
|